こだわりの企業内 保育

産業ごとの雇用移動が大きくなれば、この指数は大きくなり、構造変化に対する圧力と、その圧力に対して雇用が実際にどれだけ変化したかをあらわすことになる。

この指数はバブルの時代に大きくなり、その後、低下していたが、98年以降高まっている。 激しい不況が雇用を移動させたと見ることもできるが、バブルの時代にも雇用は移動した。
デフレによって失われたGDP失業率が上昇したことによって、どれだけ実質GDPが減少したかを考えてみよう。 昔から「オーカン係数」と呼ばれているものがある。
失業率が1%低下することによって、実質GDPが何%上昇するかを示す係数である。 縦軸に実質GDPの伸び率、横軸に失業率の変化をとって、この関係を示したのが図3‐6である。
オーカン係数を計測してみると、80〜92年のデータでは5・1、93〜2002年のデータでは4・5と、いずれも5前後で安定している。 すなわち、日本では5%下落している。
雇用の移動は、より生産的な分野へ移動したと見ることができる。 しかし、そうするためにも、北風よりも太陽が、雇用の移動には有効なのではないだろうか。

以上の事実は、構造的失業率が上昇しているという主張があやしげであり、むしろ失業率の上昇は、デフレーションによって水平になってしまったフィリップス・カーブの右方向への動きと説明されるべきであることを示している。 すなわち、失業率の上昇は、デフレーションによって説明されるべきものである。
ることになる。 GDPの対前年同期比それにしても、前掲図のフィリップス・カーブによれば、消費者物価上昇率が1%のときの失業率は2%台の後半であるが、物価上昇率がマイナスになるにつれて失業率は5%以上にまで上昇した。
すなわち、失業率は3%ポイント増加した。 これにオーカン係数の5をかけると、3%ポイントの失業率上昇によって、生産は一5%程度低下することになる。
一方、90年代の実質成長率が、現実の1%ではなくて、80年代前半の3%と同じであったなら、10年後の実質GDPは現実より20%も大きいことになる。 すなわち、水平なフィリップス・カーブによって、90年代の停滞の半分以上を説明できることになる。
残りの低下には、あとで説明するデフレ期待や不良債権が関係している。 98年の不況によって、日本の名目賃金の硬直性は破壊された。
これによって、日本経済の賃金調整メカニズムが回復した。 たしかに、断固とした金融政策はすべての慣習を破壊し、経済を完全競争の世界に近づけるもののようだ。
しかし、名目価格が実質所得に影響を与える経路は労働市場だけではない。 たとえば、すべての債務契約は名目でなされている。
名目賃金の下方硬直性を打破したからといって、バブルの後始末ができるわけではない。 また、このような名目賃金の下方硬直性は利潤を収縮させ、企業の利益率も低下させた。
利益率が低下すれば、利子率も低下する。 利子率の低下は、名目賃金の下方硬直性から生まれた可能性もある(名目利子率が低下した要因としてのインフレ率の低下については、後述)。

すなわち、利子率の低下は、あとで紹介するC教授の診断のように、少子・高齢社会に向かう日本の特殊事情によるのではなく、名目賃金の下方硬直性による実質賃金の高止まりによって生じた可能性がある。 名目賃金の硬直性破壊は必要だったのか1%の名目賃金の下方硬直性を破壊することが必要なことだったのだろうか。
物価上昇率が、これまでどおりの2〜3%(80年代の日本の消費者物価上昇率は2・9%)であれば、日本の雇用システムはそれほど大きく変化することはなかっただろう。 90年代の消費者物価上昇率を見ると、アメリカは2・8%で、日本の0・8%(消費税の効果を除くと0・7%)より高いが、それによってアメリカの経済パフォーマンスは低下したのだろうか。
「アメリカ経済はバブルだ」とか「経常収支の赤字が大問題だ」と主張する日本のエコノミストは多いが、「アメリカのインフレ率は日本より高いから、アメリカの経済パフォーマンスは悪い」と主張する日本のエコノミストは存在しない。 90年代の日本の物価上昇率が2〜3%であったとして、日本経済に何か問題があっただろうか。
日本は必要のない強い金融引き締めによって、日本経済がもっていた賃金調整メカニズム以上の圧力をかけ、実体経済を悪化させたのではないだろうか。 そもそもケインジァンにとって、ある程度の物価上昇率というのは、経済のさまざまな硬直性を管理し、経済がうまく運営されるためのコストであると考えられていた。
アメリカの代表的なケインジアンであるイェール大学の故J・T教授は、アメリカ経済学会での会長講演で、「インフレーションは、名目賃金が下方硬直的であるとしても、実質賃金を下落させて労働市場という車輪に油を差すものである(インフレは経済の潤滑油である)」と述べている。 さらに、C大学のJ教授は、名目賃金に硬直性があることから、ゼロインフレーションを目標とすることが永続的な失業率の高止まりをもたらすことを示している。
これまで日本では、ボーナス制度によって、名目賃金と実質賃金の伸縮性を保つことが可能だった。 しかし、この制度は、物価が毎年2〜3%程度上昇するということを前提にして機能するものだった。
年功賃金もそうである。 30歳前半の一人前の労働者と50歳の労働者との賃金格差は、ホワイトカラーの場合、約2倍である。
企業は慣行的に毎年、賃金を3・5%上げていかなければならない(複利計算すると20年後に倍になる)。 そうすると、労働者の生産性が年齢が上がるにつれて毎年3・5%上昇しなければ、企業の利潤は大きく収縮する。
物価が毎年3%とすれば、必要な生産性の上昇率は0・5%ですむ。 企業年金も、インフレを前提とした制度である。

物価が3%上昇すれば、実質利子率を3%として、5・5%の予定利率を払うことは可能である。 しかし、物価上昇率がゼロ%であれば、5・5%の予定利率を払うことはできない。
景気が絶好調のアメリカでも、インフレ連動債の金利は3〜4%にすぎない。 ゼロ%のインフレ率のなかで5・5%の予定利率を払うのは不可能である。
そして、これまでも述べてきた労働時間の短縮の効果がある。 これらすべてが実質賃金を高め、雇用を削減し、経済を停滞させたのである。
インフレが経済の潤滑油ではないとしても、デフレは経済メカニズムをきしませる。 賃金の硬直性は、金融政策が長期の停滞をもたらす経路となりうる。
過度な引き締めによってデフレーションが発生すれば、それが賃金の硬直性と衝突して利潤を削減し、雇用を停滞させる。 「硬直性」という言葉が示唆しているように、名目賃金が物価下落と同様に低下して実質賃金を引き下げるまでには時間がかかる。
その間、利潤は圧縮され、投資は減少する。 これはさらに生産と雇用を引き下げる。

投資の減少は資本蓄積を低下させ、さらに長期的に成長率を引き下げる。 企業の経営基盤が危うくなれば、もちろん、名目賃金も実質賃金も低下する。
実際に、98年以降、実質賃金は低下している。 しかし、賃金が低下しても、調整は終わらない。
過去の債務があるからだ。 過去の債務は名目で契約されている。

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